-->

categories

profile

ブログ内検索

archives

recommend

others

ブログパーツUL5

【鑑定小話】不動産の純収益(NOIとNCF)(その2)

前回の記事では、
・不動産の純収益にはNOIとNCFの2種類がある
・鑑定評価ではNCFを求める(NCFキャップレートを用いる)のが一般的
ということを書きました。

NOIとNCFの関係をおさらいすると以下です。

+運営収入
▲運営費用  
 NOI
+一時金の運用益
▲資本的支出 
 NCF

今回はその続き、実際の投資や売買の現場ではNOIとNCFのどちらを用いているのかについてです。

投資家の投資判断はNOIが基本


実は、鑑定評価を利用する側の投資家にとって、NCFはなじみの薄い概念です。
実際の投資に際しても、NOIとNOIベースの利回りをもとに判断しているプレイヤーが多数派です。

もちろん、NCFを併用している投資家や金融機関もいますし、中には、「ARGUS」などのDCFソフトで詳細なキャッシュフロー分析を行っている会社もありますが、全体としては、まだまだNOIが主流だと思います。

※なお、投資家が用いるNCFは、一時金の運用益を加味しなかったり、信託報酬やAMフィーなどの費用を控除するなど、鑑定士のイメージするNCFとは中身自体が違う場合もあるので注意が必要です。


NOIが主流の理由


実際の投資や売買の世界で、NCFではなくNOIが広く使われている理由はいろいろあると思います。

まず、NCFを求める過程で計上する資本的支出は、定常的な費用ではなく、外壁や屋上防水の更新、エレベーターや空調の大がかりな更新など、数年〜10年単位で発生する支出で、会計上も資産計上されて簿価の一部になる性質の工事を多く含みます。
これらはそもそも時期や金額をあらかじめ正確に見積もることが難しい面もあり、ここまで不動産の費用に含めてしまうと、収益性の判断がしにくくなります。

また、売買の世界で「ネット利回り」という場合、いわゆるNOI利回りを指すのが当たり前です(そもそも、NOIとかNCFとかカッコつけた用語は出てきません)。
「ネットで8%回る物件ですよ」という会話の中には、暗黙のうちに「NOIレベルに相当する純収益に対する利回りが8%」であることが共通理解となっています。物件間の比較をする上でも、みんなが前提としている利回り感で把握するのが便利です。

もちろん、利回り判断にあたって、大規模修繕費が全く考慮されないわけではありません。
例えば、1億円のビルを購入予定だが、古ビルで購入と同時に1,000万円の改修工事が必要だ、という場合、買い手としては、修繕費を上乗せした1億1,000万円を取得価格として利回りを考えます。
ただし、これは、確実に見込まれる大規模修繕費を簿価に加える、という取得原価の考え方であって、NCFとかNOIといったものとは別の次元です。

ちなみに、鑑定評価では当たり前となっている、「一時金(敷金・保証金)の運用益」は、通常の投資家はまず考慮しません。

敷金はテナント退去時に即返還の必要があるうえ、証券化スキームの中では、賃料等とは別勘定で管理され、自由に運用はできません。敷金を他の資金とミックスして運用可能な個人オーナーなどでも、現在の低金利では大した運用益は見込めないでしょう。

鑑定評価の場合、未だに敷金残高(空室控除後)に対して、年1〜2%の運用益を計上するのが一般的ですが、ここは市場の感覚と大きくズレている印象です。


NOIが収益指標とされている例


・REITの物件取得リリース
REITの物件取得時に運用会社が想定収支を開示する場合があります。その場合、NCFではなくNOIが用いられています。

(例)大和証券オフィス投資法人「資産の取得に関するお知らせ(北浜グランドビル)」(PDF)より


・日本不動産研究所の投資家調査
不動産マーケットで広く参考にされている、日本不動産研究所の「不動産投資家調査」でも、NOI利回りを尋ねる形式になっています。これも、投資家の利回り感覚がNOIベースで形成されている証拠です。(同社は最大の鑑定事務所で、本業の鑑定評価ではもちろんNCFを使っています。)

なお、鑑定評価基準の解説書「要説」でも、NCFの算定過程で求めるNOIの意義を認めています。

<運営純収益(NOI)を表示する理由は、会計上の営業損益と類似概念である運営純収益を示すことが投資家等への開示資料として有効であることであり、また欧米等における不動産インデックスの作成において、類似の概念であるNOIが多く用いられていることなどによる。>

(「新・要説不動産鑑定評価基準 改訂版」p352より)


鑑定士もNOI・NOI利回りは常に意識した方がよい


鑑定評価基準では、DCF法に代表されるキャッシュフロー重視の観点や、資本的支出も含めて、投資対象が収益を生み出すのに要した支出を全て控除すべき、という考え方から、NOIではなくNCFを純収益として位置付けていると思われます。

鑑定評価の立場は理論的ではありますが、だからといって、不動産マーケットでのスタンダードを理解せずに、鑑定士が「この物件の(NCF)利回りは5%が妥当だと判断しました」と依頼者に説明した場合、どうなるでしょうか。

NOIベースで考えるのが当たり前と思っている投資家との間で、NCFベースの「収益」や「利回り」の議論をしても、話がかみ合わないでしょうし、誤解を招くおそれがあります。キャップレートは、不動産評価のキモになる部分なので、その前提が鑑定士と依頼者との間で食い違っているのはトラブルのもとです。

鑑定士としては、基準は基準としてキチンと理解した上で、依頼者が念頭に置く純収益はNOI、NCFのどちらに対応するものなのか確認し、場合によっては、鑑定評価で前提とする純収益(NCF)の考え方を説明する必要も出てくるでしょう。
(私自身は、まだ証券化評価基準ができる以前から、NCFベースで評価書を書く事務所にいたので、実際にそういうケースがありました)

また、日々の評価でも、NCFベースの利回りだけでなく、試算した評価額に対してNOIベースの利回りがどのくらいになるのか、NOIベースの経費率がどの程度なのか、ウラで計算するクセを付けておくとよいと思います。



       
コメント
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック